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翔峰学園物語
School days
 校舎の前に張り出された紙の前に大勢の生徒が群がっていた。
 彼らは名前の書かれたその巨大な張り紙の前で自分の名前を探し、見つけては一喜一憂する。
 生徒の群れの中でこの二人もたくさんの名前の中から自分の名前を探していた。
 片方の生徒が指で名前を指しながら言った。
「あ、あった。C組だ」
「俺は・・・・・・うわ、A組か。慶太とは離れちまったな」
 自分の名前を見つけて遙はちょっとがっくりした。編入組で知り合いもいないのでなるべくなら慶太と同じところになりたかった。
 A組の名簿を見たが、どうやら自分と親しい寮生はいないようだ。
 寮に入って一週間がたってやっと寮生活になれたころには同じ一年生は割りと仲良くなっていた。だが入寮日に流れた例の噂のせいで、いまだに怖がって近寄ってこない奴もいて実際に仲のいいのは同じ階のほんの四、五人くらいだった。
 その中でも隣部屋の慶太とはわりとうまくいって、学校のこととかいろいろ教えてもらっていたから同じクラスになりたかったけど仕方がない。
 ほとんどの生徒が中等部からの持ち上がりで、すでに中等部時代から友人関係を築いているから編入組がそこに割り込むのはなかなか難しい。
(しょうがない。そのうち一人か二人は友達くらいできるだろ)
 もともと覚悟していたことなので、あっさり気持ちを切り替えた。そんなに群れるということが好きではなかったし。
 隣にいた慶太が誰か知り合いを見つけたのか、人の群れの向こう側へ声をかけた。
「早瀬、おはよう。もうクラス発表見た?」
 人ごみの中から二人のほうへ小柄な少年が歩いてくる。
 彼らと同じ制服で、一年生を示す青色の校章を胸につけている。ということは同学年か。
 慶太の知り合いということは中等部からの進学組だろう。
「うん、A組だった。永見は?」
「俺はC組だよ。A組なら遙と同じじゃないか」
 そういって慶太は遙のほうを振り向いた。早瀬と呼ばれた生徒も彼の顔を見た。
(きれいな顔しているな)
 それが遙の第一印象だった。不本意だが自分も女と間違われることがよくあるが、こいつも服装によっては間違われてもおかしくない顔くらいのきれいさだった。
 背も自分と同じぐらい小柄で、言葉遣いも柔らかい。
 ただ格闘技をしている遙は鍛えている分だけ筋肉がついていて細くても体つきはしっかりしていたが、どうみても早瀬は彼よりずっと華奢な体つきをしていた。
「遙はオレと同じ寮生で、高等部へ編入してきたんだ。知り合いもいないから、よかったら面倒見てくれないか、早瀬」
「いいよ、俺は早瀬祐樹。よろしく」
 そういってにっこり笑うととてもかわいい顔になる。
「皆月遙だ。こちらこそよろしく」
 二人は軽く握手すると、早瀬が何かを思い出したように時計を見た。
「あ、もう時間だ。ごめん、またあとで!」
 彼は二人を残して体育館のほうに走っていってしまった。
 周りの生徒も自分のクラスを確認し終わって、体育館のほうに移動し始めたらしく、人数が少なくなっていた。
「俺たちもそろそろ移動しないとね。入学式が始まる」
「ああ、さすがに入学式でも遅刻は避けたい」
「あはは、そうだね」
 入寮日の日は遅刻してしまったから。そしてあの騒動だ。
 慶太もあの時のことを思い出して笑った。
 今でこそ笑い話だが、当時はとても口にできるような状態ではなかったことは事実だ。なんせ、あのあと他の寮生からは恐れられるわ、敬遠されるわで居心地が悪いったらありゃしない。
 今ではそんなことはなくなってきてはいたけど、まだ時折あちらこちらでひそひそ声が聞こえて、そのときは何も聞こえないふりをしている。
 しばらくすれば忘れるよ、というのは海都先輩の言葉だが、それはまだまだ遠そうだ。
 二人は話題を変えて、互いの中学校時代のたわいもない雑談を交わしながら二人は一緒にゆっくりと体育館へ歩き始めた。
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