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「今日、姉上と何を話していたんだ?」
 自分がいない間、姉と話をしていたという千夏。だが話を聞く限り、より親密になったという印象はあまり感じられなかった。
 むしろ、敵意倍増といった表情で千夏は冬馬を下から睨みつけていた。
「・・・・・・本当に似てない姉弟よね」
「いきなり失礼な奴だな、お前は」
「似てなさすぎるんだもの。二人とも。共通点があるって言えば、そーねえ、二人とも人ならざる力があるってぐらいかしら」
「それは言いすぎだ。大体俺にはたいした力なんてないし、姉上は歴代に並ぶものはなしってぐらいにすごい力を持っている。俺と比べるなんてお門違いもいいところだ」
「ふーん、そんなにすごいの? でもお姉様が力を使っているところなんて見たことないな。いつもあの生意気な《式》たちがやっちゃうもの」
「そこがすごいんだよ。あいつらはもともと神に属するもので、あることがきっかけで鬼と化し、人々に多大なる害を及ぼすほど暴れていて誰もそれを止められなかった。そのときたまたまそこに行った幼い姉上がそれらの鬼を封じ込め、自分の《式》に下したって聞いている」
「そのときあいつらはどのぐらいの被害を起こしたの?」
「んー、まず地震で少なくとも町一つと近くの山がつぶれたって聞いたなあ。あと大きな川の流れが思いっきり変わったとか、海岸付近では大きな津波が襲ったとか、あとは町のあちこちで火事が多発して争いが起こったとかだな。他にもまだまだあるみたいだぞ」
 自分はそのときまだ赤ん坊でその状況を見ていないが、父親から聞いた限りではとても人の力で止められるものではなかった。それでうちに依頼が来て、様子を見に行くときに父が幼い姉を連れて行ったということだ。
 ちなみに鬼としてあいつらが暴れた原因は神域が人間によって荒らされてそこに鎮められていた五体の神が怒ったとのこと。まあ自業自得のような気もする。
「その後姉上の力に感服したやつらは絶対的忠誠を誓って使えているって訳だ」
「すごいのはなんとなくわかるけど。でもやっぱり自分の目で見てみないとねー」
「だからって何か姉上に仕掛けるのはやめろよ」
 俺たちが殺される、と言外にこめて言った。千夏はもちろんだが、監督不届きということで冬馬までとばっちりを食らう。
 だがその忠告はさらりと聞き流された。
「どうしようかしら、幻で化け物でも作ってお姉様を襲わせようかしら。あ、でもあのお姉様だからにせものだって見破っちゃうか。うーん」
「人の話を聞けっ!」
 完全に面白がっている。いたずらっぽい顔をして、千夏は冬馬に向けてちょろっとかわいい舌を出していった。
「あ、冬馬を操ってお姉様の胸を触らせるってのはどうかしら。これいいかも、名案」
「おーまーえーなーっ!」
 顔を真っ赤にしながらいい加減にしろと捕まえようとした。だが彼の腕を潜り抜けて、彼女は障子のところまで逃げてしまった。障子を背にして、冗談も通じないのねー、などとおどけて言う。
「そんなことするわけないじゃない、大事なお兄様に」
「冗談に聞こえないんだよ、お前の発言は!」
 完全に頭にきている冬馬を見ながら、けらけらと笑う。
「あはは、それはお兄様の被害妄想だ・・・・・・きゃっ!」
「千夏ーーーっ、一緒に寝ましょう!」
 閉まっていた障子がいきなり開かれて、飛び出してきた黒い影はがばっと手を広げたまま、千夏に飛び掛った。不意打ちを食らった千夏はもがもがと離れようともがいている。
「ちょっと、あなた黒曜ね! なにすんのっ!」
「だから、一緒に寝ましょ。ね?」
「どうして私があなたと一緒に寝なきゃならないの!」
「だってぇ、お友達になりたいんだもん」
「私は嫌よ」
「そんなあ・・・・・・」
 うるうると瞳を潤ませて懇願する黒曜。しかし千夏はぷいっと顔を背けて冬馬の腕にしがみついた。
「今日、千夏はお兄様と一緒のお布団で寝るの。あなたはどこか一人で寝てらっしゃいな」
「じゃあ黒曜も一緒に寝まーす」
「あなた人の話を聞いてる?」
「はい、だって千沙様は屋敷の中ならどこでもいいって言ってましたよ。だから黒曜はここで寝るんです」
 じゃあ布団敷きますねー、と言って勝手に布団を敷いて、持ってきた自分の枕までちゃっかりと布団に置いた。
「冬馬殿が真ん中で、千夏様が左、黒曜が右です」
「って、あなたかってに決めないでよ!」
 布団の周りでぎゃんぎゃん叫ぶ千夏を眺めながら、ポツリと冬馬はつぶやいた。
「俺には拒否権はないのか?」
 障子の向こうに目をやると、黒曜の後についてきたのか白露がこっそり廊下にたたずんでいて、冬馬と目が合うと哀れみのこもった目でがんばれ、と応援を送ってどこかへ去っていってしまった。
 黒曜は任せたということか。
 二人の間ではもうここで寝ることは決定事項らしい。
「また静かに眠れないのか。俺の快適な睡眠は・・・・・・」
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