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 朝餉の食卓で二人の怒鳴りあう声がにぎやかに繰り広げられていた。
「完全に眠りこけてて起きなかったって、最近たるんでないか? ったく、肝心なときに役に立たないんだな」
 がっちゃがっちゃと冬馬は乱暴に納豆をかき回す。
「うぅぅ、うるさいわね! すぎちゃったことをいちいち言わないでよ。無事だったから良かったでしょ」
 図星をさされて千夏がうめく。そして苛立ちをぶつけるかのように、空になった茶碗を差し出しながら大きな声でお代わりと叫んだ。
「毎日それだけただ飯食ってんだから少しは自覚して働け」
「あら、お兄様、生意気なこと言うじゃない。私、お兄様より働いてるわよ」
「・・・・・・どこでだ。嘘も休み休み言え」
 白いご飯をこんもりと盛った茶碗を千夏に差し出しながら黒曜が笑っている。
「お二人とも朝からお元気ですねえ。仲良くてよろしいですね」
 その言葉にがくっと冬馬の頭が落ちる。
「これ見てどこが仲がいいって言うんだ。お前の目は節穴か」
「えー、仲いいじゃないですか。けんかするほど仲がいいって言いますよ」
 からからと笑う黒曜の前にまた空になった茶碗が差し出された。
「あやや、千夏ったらもう食べちゃったの?」
 すでにもう千夏のことを呼び捨てである。当の彼女も訂正させるのをすでにあきらめたらしい。
「ご飯一膳なんて私ならぺろりよ、ぺろり」
「うーん、そうするとよそうのが大変ですよねー。そうだ、この際だからお茶碗大きくしません、いっそのことお櫃まるごと、とか」
 そういって黒曜は一抱えもあるお櫃を持ち上げてみた。
「そっか、そうだね。たまにはいいこというじゃない。そのほうが食べごたえがあるし、お代わりするたびにお兄様ににらまれなくてもいいしー」
「おまえ、うちの台所事情破綻させる気か? 黒曜、お前も余計なことを言うな!」
「えええ、千夏のために言ったのにー。怒られたー」
「怒ることないじゃない。お茶碗をお櫃にするのは駄目なの」
「駄目に決まってんだろ!」
「うー、お兄様のけちー」
 ぴいぴい叫ぶ二人の言葉に耳をふさぎながら冬馬は残ったご飯をかきこんだ。


 食事を終えた冬馬は客間へ行き、廊下から中へ声をかけた。
「義兄上、起きられていますか?」
「ああ冬馬か、起きている。すまないな」
 からり、と障子を開けて中に入ると、裕次郎が起き上がって食事をしているところだった。
「すみません、食事中でしたか」
「いや大丈夫だ。もういただいた」
 横から膳を下げた紅霞に、彼はありがとう、と礼を言う。
 裕次郎が身づくろいをし終わるのを見計らって、冬馬は声をかけた。
「お加減はいかがでしょうか」
「ああ、だいぶいい。ひさびさにまともな食事をいただいたしな」
「ですがあまり無理をなさらないでください。しばらくここで養生していってはいかがでしょうか」
 その言葉に裕次郎がううむ、と考え込む。
「それはさすがに迷惑だろう。私とて城への奉公があるし、それに何より千沙が・・・・・・」
 自分がここにとどまるのを千沙が承知しないのではないか、と。
 しかし冬馬は身を乗り出すように力説した。
「城のほうへは私がこれから城下へ行ってこのことを伝えてまいります。姉上に関しては気になさらずに。姉上とて倒れた義兄上のことをこのまま放り出すようなまねはいたしますまい」
「そ、そうか? 千沙はやるときはやるぞ」
 義兄上も姉上の性格をわかっていらっしゃる。
 だがここは引くわけにはいかない。
「大丈夫です。万が一放り出そうとしたら、私が全力でさえぎりますから」
 任せてください、と冬馬のあまりの剣幕に押されたのか、裕次郎は頷いた。
「ではお願いする。・・・・・・実を言うとな、最近妙に疲れていたのだよ。やけに眠くなるし、すまないが少し眠らせてもらってもかまわないか?」
「はい、どうぞごゆっくりお眠りください
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