Copyright(c)2008.ginyouju.All Rights Reserved
「もしもーし、なにしてんの?」
 片手に地図が書かれた紙切れを持った遙は門の向こうから中の様子を伺っていたが、その声を聞いてはっと目を上げた。
 自分よりも頭一つ分くらいは背が高い人が目の前に立っていた。彼は人のよさそうな笑顔を浮かべている。
 それがなんだかちょっとだけ腹が立った。
 だがにこやかに笑っていた彼は近くで遙の顔を見るなりなぜか硬直した。
「えーとぉ」
 口ごもってなにやら考え込んでしまったので、しかたなく遙はこっちから尋ねた。
「ここは翔峰学園の寮ですよね」
「ああ、そうだ、け、ど」
「あの、新入生の受け付けはまだ終わっていませんか? 今日の入寮予定のものです。遅くなってすみませんでした」
 しかし彼はまだ硬直したままだ。
 その様子に不審を覚えた遙は首をかしげて尋ねた。
「どうかしましたか?」
「いや、その」
 さっきから妙に歯切れの悪い返事をして、彼は遙を上から下までゆっくりながめ、そしてまたうーんとうなった。
「はっきり言ってください。何か問題でも」
 少しだけ眉をしかめて遙はもう一度尋ねた。
 彼は髪の毛を無造作に掻き揚げて、言いにくそうに口を開いた。
「あのさ、聞くけど、ここが清花寮だってわかってるよね」
「・・・・・・はい、門に書いてあるじゃないですか」
「で、清花寮は男子寮なんだよ、わかってる?」
「は?」
 遙は思いっきり顔をしかめた。
(何を言っているんだ、こいつは)
 当たり前だろうと怒鳴ってやろうかと思ったが、遙はぐっとこらえた。初日に寮の人とやりあうのは今後を考えて得策ではない。
「なにがいいたいんですか?」
 逆に問われたために本当に困った様子で彼はまぶたを閉じて天を見上げた。救いを求めるように。
「だからね、女子寮はここじゃなくて紅武寮なんだ。ここの向こう側にあるから」
 そういって彼は向こう側の森のほうを指差した。
(じょしりょう?)
 その言葉に思わず思考が停止する。
「・・・・・・あの、あなたの言っている意味がわからないんですけど」
 そういうのが精一杯だった。頭が思考するのを拒否している。
 口元は引きつった笑いがこみ上げてきた。
「君、女の子だろ? 女の子を男子寮に入れるわけにはいかな・・・・・・っ!!」
 だが彼は最後まで言葉を発することはできなかった。
 次の瞬間には烈しい土ぼこりとものすごい地響きがあたりに鳴り響いた。
「・・・・・・誰が女の子だって?」
 地の底から鳴り響くような声で、遙は眼下に伸びている青年を見下ろした。
inserted by FC2 system