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 ベッド争奪じゃんけんは後出し疑惑のため三回やり直しをした後、五番勝負の接戦の結果、海都が上の段を取った。
「よっしゃ、上はオレがいただいた!」
 遙はひらいた手のひらを見つめてじっと立っていた。たかがじゃんけんだが、負けるとさすがに悔しい。
 時計はすでに十時を回っていた。片づけだなんだで、結構時間がたってしまったらしい。
「消灯は十一時。それまでは自習ってことになってるけど、それは個人の自由だ。今は休み期間で宿題もないし、自分の好きなようにすればいいんじゃないか?」
「部屋の外へ出てもいいんですか?」
「ああ。ただ消灯前に寮長が点呼にくるから、それまでに帰って来いよ」
「じゃ、ちょっとトイレいってきます」
 パタン、と扉を閉めて、遙は廊下を突き当たって右に進んだ。トイレは両側にあるが、こっちのほうが距離的に近い。
 薄暗い電灯の灯りを頼りに彼は誰もいない廊下を歩く。
 消灯前なのでみんな部屋にこもってしまっている。寮生の部屋の前を通って、その隣にある作業室を覗いてみたが誰もいない。トイレはその先の人気のないところにある。
 ふわあ、とあくびをしながら遙はトイレに入ろうとした。そのときだった。
 突然口をふさがれて、首を締め付けられた。
「んぐっ!」
 とっさに対応ができなかった遙は体ごと宙に持ち上げられてしまった。足が地面についていないせいでうまく力が入らず、おまけに首を絞められているので思うように反撃ができない。
 そのまま彼はトイレ脇の倉庫に連れ込まれてしまった。
 誇りっぽい倉庫にはほかに二人の人間の影が見えた。
「思ったより簡単だったな」
 ぼそぼそと誰かが暗闇の中でしゃべっている。
「油断すんなよ、こいつは凶暴だぞ」
「ああ、暴れないようにしばっておこう」
 遙は口には布で猿轡をはめられ、両手足を動けないように縛られた。きつくしばられたため、どんなにもがいても解けない。
「ふががががっ!」
「まだこいつあきらめてないぜ」
「いいさ、このまましばらくほっとこうぜ。そうすりゃ少しは懲りておとなしくなるだろ。別に俺たちなぐったりしているわけじゃないから、ばれてもたいしたことにはならないだろうし」
「消灯の時間になれば誰かが助けに来るさ」
 そういって彼らは倉庫の隅に一人遙を残したまま、立ち去ろうと出口に向かった。
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