Copyright(c)2008.ginyouju.All Rights Reserved
 寮に帰ると部屋にはすでに海都先輩が帰ってきていて、遙に向って、お帰りー、と右手を手を揚げて出迎えた。
「学校はどうだった?」
「一応友達というか、気のあいそうな奴は見つけました。ま、何とかやれるとおもいますよ」
 そうかそうか、といって頭をぐしゃぐしゃ撫で回す。頭ひとつ分くらい身長が違うから、いつもやられる。
 だからそんな子ども扱いするなって。
 むっつりする遙を見やりながら、手を顎にあてながらひじを突いて先輩は言った。
「友人ってもんはすぐできるもんじゃないさ。俺も友達は多いけど、友人って呼べるやつはそんなにいない。うわべだけじゃなくて、悩みを分かち合える、心の底で分かり合える奴が友人になるのさ」
「じゃあ、隣の咲岡先輩は?」
「漣か? あれは・・・・・・そうだな、友人というよりは、共犯者ってとこかな」
「ますます意味がわからなくなるんですが」
 はっきり言うとこの二人の関係はわからない。性格はまったく違うのに、寮の中ではつるんでいることが多い。ただ隣同士というだけで、クラスも違うみたいだし、なんなのだろう。
 教科書が目一杯入った紙袋を机の上に放り出した。これが一年分の教科書か。勉強のことを考えると頭が痛くなる。
 紙袋からこぼれた教科書を手にとってぱらぱらめくりながら、海都先輩はなつかしいなーとつぶやく。
「いっとっけど教材はこれだけじゃないからな。授業でプリント配るのは当たり前だが、さらに問題集やら資料集やらいろんなものがどしどし配られるからなー。覚悟しとけよー」
「え、マジですか」
「こんなので嘘ついてどーする。そうそう、もちろん長期休みには泣きたいくらいたっぷり宿題が出るからな。楽しみにしとけー」
「・・・・・・」
 無言で机に沈んだ遙であった。
 ぽんぽんと慰めるように肩をたたかれる。
「そう落ち込むな、高校生活は始まったばかりじゃないか」
「落ち込ませたのは誰ですか!」
 食って掛かろうとした遙の額にひんやりと冷たいものが触れた。
「俺からの入学祝だ。ありがたく受け取れ」
 赤い缶に入ったコーラを手渡しながらにやりと笑う。
「どうせならもっといいものがよかったな」
「贅沢ぬかすな。もらえるだけありがたいと思え」
 そうだな、と顎に手を当ててにやりと笑う。
「お前が試験で学年トップ10に入れたら好きなものおごってやるぞ。ステーキだろうと寿司だろうとなんでもいいぞー」
「・・・・・・それって絶対無理だってわかってていってますよね」
「あたりまえだろ。俺は無謀な賭けはしない主義なんだよ」


(ったく、海都先輩はストレートすぎんだよ)
 先日のことを思い出しながら、遙はぶちぶち文句を言いつつ廊下を歩いていた。
 教室のある校舎と職員室のある校舎はそれぞれの階ごとに渡り廊下で繋っていて、彼は用事があって職員室に向かうところだった。
 ホームルームのあと、担任の榊から授業が終わったらちょっとこい、と言われて思わず身構えたが、榊は警戒している遙を見てびびるなよ、と笑った。
『説教じゃない、部活のことだよ。お前特待生だろ。うちでは特待生は他の生徒より先に入部手続きしなきゃいけないからな』
 そういえば仮入部は来週からはじまるって言ってたか。だとすると本入部は二週間ぐらいあとになるはずだ。
 俺は柔道部に入るのが条件の特待生だからさっさと入部させて練習に参加しなきゃならないってことだ。そうだ、そうだった。
 というわけで、授業が全部終わったので、遙は一人で職員室へ向かうことにした。
 渡り廊下の途中で見覚えのある奴らが目に入った。その彼らに取り囲まれているのはこれまた自分のクラスメートの早瀬、だ。
 書類の束を抱えたまま、彼は三年生の三人に囲まれて、壁に背中を押し付けてられていた。どうみても絡んでいるとしかみえない。
「なーにやってんですか、加藤先輩」
 声高に遙は声をかけると、例の先輩たちはぎょっとしたように振り向いた。
「皆月!」
「一年生いじめなんてかっこ悪いですよ」
「うるせえっ! おまえには関係ねえ、ひっこんでろ!」
「関係なくはないですよ、先輩が絡んでいるのはオレのクラスメートですし」
 ちらりと囲まれている早瀬を見やる。別段慌てている様子も、おびえている様子もない。落ち着いた表情ながら目だけが少し冷たい輝きを帯びていた。
(結構度胸あるな、こいつ)
 普通は三年生に囲まれればおびえたりするものだろうに。
「とにかくそいつ、はなしてもらえませんか」
「いやだといったらどうする」
 ぽきり、と軽く指を鳴らした。
「もちろん実力行使で。そーいえばこないだの借り、まだ返していませんでしたっけ。今度は手加減なんてしませんよ」
「貴様!」
 ざわり、とあたりの空気が緊迫する。


inserted by FC2 system