ジェットコースター系のアトラクションはさすがに人気があるらしくけっこう並んだが、秋郷がうまい具合に話を弾ませてくれたおかげで待ち時間も気にならなかった。いくつか絶叫系のアトラクションに乗ったところで、女の子の中で少し具合の悪そうな子がいたので、レストランで昼食を兼ねて休憩することになった。
 いくつかのフードコートがくっついたところで好きなものを買ってきて食べ始めた。さすがに8人全員で同じテーブルに坐るのは無理なので、二つの席に分かれた。
「ねえ、ちょっと聞いていいかな?」
「何でしょうか」
 同じ席に座った冴の友達が紙コップに入ったジュースを片手に話しかけてきた。たしか沢木響子という名前のはずだ。いつも明るく会話を引っ張っていく女の子だ。
「早瀬君って好きなタイプの女の子ってどういう子?」
 思わず口にしたハンバーガーを噴出しそうになった。いきなりストレートな質問だな。
 裕樹よりもむしろ隣の冴のほうが慌てていた。
「ちょっと、いきなり何を聞いているんだ!」
「あら、別にいいじゃない。単に挨拶代わりよ」
 挨拶代わりにしては結構な質問だと思うが。いさめるように言って冴から自分に視線を戻し、問い詰めるように覗き込んできた。
「で、どういう子? もしかしてこの中にいる?」
 いたずらっぽく輝く黒い目だったが、その眼差しにはまったく隙がない。
(もしかして勘付かれたか?)
 胸の動機を押さえながらどうやってはぐらかそうかと考えた。ここで彼女を見ては絶対にばれる。かといって適当に嘘をつくというのにもためらいがあった。
(嘘を本気にされたら困るし。でもどうすれば)
「突然言われても、俺も困りますよ。冴の他は今日会ったばかりじゃないですか」
 できる限りの笑顔でそう答えた。だが彼女も追及の手は緩めない。
「一目ぼれって言うのもあるわよ。でも、あなたの場合は違うかも、ね」
 そういって意味ありげな視線を冴に向けて投げる。彼女はきょとんとした様子で自分たちを見つめていた。幸いなことに話の意味をわかっていないらしい。
 こっちは助かったが目の前の敵はどうする。何が目的だ。
「どういう意味でしょう?」
「あくまでシラを通す気ね。たぶんずーっとそうしてきたんだもんね、きっと」
 ちっと裕樹は心の中で舌打ちをした。やっぱり気づいている。
 ここでばらされてはかなわない。だが、どうする。
「言わないの?」
「何のことだか」
「・・・・・・やっぱ気に食わない」
 ぼそりと不満げにつぶやいた彼女はストローでジュースを飲んだ。そこへお盆にポテトを山盛りにした太一が戻ってきた。
「うわー、遅くなっちゃってごめんなさい。ポテトはやっぱり揚げたてじゃないと、ほら僕からのおごりです。食べてくださーい!」
 そういって彼は二つの席にたくさんのポテトを置いた。そこで不穏な空気を察したのか、裕樹と沢木の間を見渡した。
「どーしたんですか?」
「なんでもないわよ、ポテトありがとう」
 満面の笑みを浮かべて彼女は太一に礼を言った。その笑顔に、えへへと彼の顔はだらしなくとろける。
 昼食を食べてみんなの元気も戻ったところで、次のアトラクションはどれにするかと地図を見ながら相談した。
「絶叫系ばかりじゃなくて別のも行きたいわよね。ちょっと陽菜が具合悪くなっちゃったし」
「ううん、もう平気だよ。響子ちゃん」
「駄目よ、あまり無茶はしないほうがいいわ。・・・・・・そうね、これなんかどうかしら」
 そういって彼女が指差したのはミラーハウス。たしかにこれなら乗り物ではない。
「鏡の迷路ってやつか、いいんじゃない。あとは適当に歩きながら乗りたいのにそれぞれ乗るってことで」
 秋郷が同意して、反対意見もなかったので次の行き先が決まった。
 ゴミ箱でゴミを片付けていると、いつの間にか近づいてきたのか、沢木が隣にいた。彼女は手にしていた紙コップをゴミ箱に捨てると、裕樹の顔を見ないでつぶやいた。
「何で言わないのか知らないけど、このままでいるといつか誰かにとられるわよ。それでもいいの?」
「とられたくはないさ」
 だけど、まだ言えない理由があるんだ。だけどそれは他人から見ればちっぽけな理由かもしれないけれど。
 彼女は肩をすくめると、背を向けて歩き出した。だが二、三歩歩いたところで彼女は立ち止まった。
「わたし、じれったいのとまどろっこしいのは嫌いなのよね。決めるときはすぱっと決めなさいよね」
 そういい残して彼女はみんなの元に戻っていった。
 勝手なことを言うだけ言って、という思いがあったが、彼女の言うことも一理ある。このままでいるのはぬるま湯につかっているみたいで心地よい。でもずっとこのままでいるわけにはいかない。それは自分にだってわかる。
 ここから踏み出す一歩。それが必要なんだってことも。
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