幾度も迷いながらやっとのことで出口につくと、そこには太一ペアだけが待っていた。
「あ、やっと来た。遅いよ、早瀬君」
 ぶんぶんと手を振る太一に疲れたように手を上げて答えた。
「ごめん、それにしても早かったな、そっちは。あれ、秋郷は?」
「ん、まだだよー。迷路の中でまださまよってるんじゃない?」
 先にいったのにまだ中にいるのか。あの様子ではしばらく出てこないかもしれない。
「僕は彼女が案内してくれたから早かったんだー」
 ねー、と太一は隣にいた女の子に笑いかけた。
「落ち着いていれば迷路は迷わずに済む。それにくらべて響子たちは冷静さを失っているようだったがな」
「まあまあ、綾香」
 困った顔で冴がなだめている。彼女の怒りはわかるが、あれは秋郷のほうが悪いと思う。無理やり彼女を連れて行ったのは彼だ。
 そういえばまだ高木たちの姿もない。彼は無事見つけられたのだろうか。
「陽菜たちもまだいないな。大丈夫かな」
 心配そうに冴がつぶやいたときだった。出口から高木たちが姿を現した。
「陽菜!」
 冴が女の子の姿を見つけると急いで飛びついていった。
「大丈夫だった、陽菜」
「うん、心配かけてごめんね。高木さんが私を見つけてくれたから」
 そういって彼女は傍らの高木をまぶしそうに見つめた。
「見つけられて良かったな」
「ああ、鏡の中で立ちすくんでいたのを見つけた。俺がうっかりしていたからいけなかった」
 まだ後悔の念が残っているのか、不甲斐ないと自分を責めている高木の背をぽんぽんとたたいた。
「お前がちゃんと見つけたからいいんだよ。あの子も感謝しているみたいじゃないか」
 陽菜と呼ばれた女の子はうっすらと目が赤く染まっていた。一人ぼっちになって泣いていたのかもしれない。
「あとは秋郷たちだけだな。出てこれるかな、あいつら」
 しばらくすると少し怒り気味の沢木と恐縮しきりの秋郷が並んで出てきた。
「いやー、ごめん。迷いに迷っちゃって」
「それはあなたがいけないんでしょう! そっちは違うって言うのに勝手に進んで!」
「まあいいじゃないか。出てこれたんだから」
 彼女の怒りをひらりひらりと笑顔でかわす秋郷。しかし彼女はぷいとそっぽを向いてしまった。
「もう、あなたと一緒には行動しないから!」


 ミラーハウスを出て、いくつかのアトラクションをまわったが、沢木は決して秋郷には近づかなかった。彼は幾分寂しそうだったが、自業自得である。うかつに彼をフォローすればどんなとばっちりが飛んでくるかわからない。
 彼女は太一たちと一緒に行動していて、秋郷は裕樹と冴の後ろをとぼとぼとついてくる。
「秋郷、あれはやりすぎだよ」
「俺は自分の思ったことを素直にあらわしただけだぜ」
「でも響子はけっこう頑固なところがあるけど。それに曲がったことは大嫌いだから、ちゃんと謝ったほうがいいと思う」
「そうか、わかった。がんばって謝って許してもらう」
 冴に言われたのでとたんにしゅんとしてしまった。あの秋郷がここまでへこむのは珍しい。いつもお気楽な彼だが真面目なところもあるようだ。
「あの子のこと、気に入っているのか?」
「ん、気になるってぐらいだけどな。でもそれよりも話してて面白いんだ、彼女。頭の回転は速いし、こっちの言うことにぽんぽん返してくるしな」
「人の好みはそれぞれだろうけど・・・・・・」
 裕樹はどうしても彼女のことが苦手に感じていた。たぶんさっきの昼飯の一件が尾を引いているのかもしれない。鋭すぎる女の子は自分の心をどこまでも見透かされそうで怖い。
 先頭を歩いていた太一があれあれ、とはしゃぎながら指をさした。
「あれ、行きましょうよ。お化け屋敷! 遊園地の定番でしょ!」
 彼が指差した先にはいかにもお化け屋敷といった風情の古びた建物があった。
 彼は女の子たちを引き連れて、勝手にお化け屋敷の中へ入っていった。
「こら! 待てよ!」
 裕樹たちの叫びも聞かないで彼らの姿はお化け屋敷の中へと消えた。
「しかたないなー、あいつは」
 遊園地に浮かれきっている奴につける薬はない。
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